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Arte Classica by Ishiguro Gallery

思い出深き、鼠先生

 

鼠志野茶碗、『山の端』。

 

現在開催中の「根津美術館の国宝・重要文化財」で展示されている、重文4茶碗の一角だ。
美術商としてのキャリア駆け出しの頃の話だが、
本で対面しただけの『山の端』は、薄ぼけてパッとしない印象だった。
解説を読むと何とこれが鼠志野の1番だと言う。
美術館でガラス越しに見たが、やはりもうひとつピンと来ない。
「ひと昔前の人々は、どうせこういうのを侘びてるとか、静かだとか言っていたんだろうな。
今の感覚ではちょっと地味だな。五島の峯紅葉の方がよっぽど華がある。」
生意気にもそんな風に分かったような事を思っていた。
実際、今日高い評価を受けている志野茶碗「羽衣」も、
かつては、森川如春庵翁曰く、「騒がしくて品がない」と。

 

そんなある日、根津美術館が茶会で『山の端』を取り合わせていた。
茶席に赴いた僕に対し、ガラスなしで会う『山の端』は、20メートル程離れた所から、
まるで竹林で翁に発見された時のかぐや姫の如く燦々と光り輝き、
遠くから軽やかに、しかししっかりとした口調で話しかけてきた。

 

「やぁ、来てくれたんだね。貴君、僕の事、パッとしないって思ってたでしょう?」

 

あの時の震えるような感動は今も忘れない。
ガラス1枚でこうも違うものかと、心底思い知らされたのだ。
そして、真の魅力が実際に掌に収めた者にしか分かるはずもない事も。

 

あの日から『山の端』は僕の先生になった。と言うか、勝手に先生と呼んでいる。
「簡単に分かった気になるなよ」

 

 

( I )

 

抹茶茶碗 Arte Classica アルテクラシカ

江戸時代の茶碗セレクトショップ|アルテクラシカ

アルテクラシカは、古美術商石黒ギャラリーが根津美術館の向かい側にオープンした、江戸時代(古美術)及び、現代作家の抹茶茶碗を扱うお店です。併せて、現代の生活空間で抹茶を楽しむための、新しいスタイルの茶器・茶筅・柄杓等の取り扱いもしております