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Arte Classica by Ishiguro Gallery

蝉の小川

 

9月に入り、いよいよ蝉の鳴き声も千秋楽ですね。
去り行く夏を惜しみつつ、蝉にまつわる平茶碗話をちょいと。

 

石川や 瀬見の小川の清ければ 月も流れを尋ねてぞ澄む <新古今・神祇>

 

石川の瀬見の小川は水の流れが清いので、月もこの流れを尋ねてきて、澄んだ輝きで川面に宿っている、と言う意味。
この歌は「方丈記」の著者鴨長明が歌合わせの席で詠んだもので、長明が「瀬見の小川」を詠んで以来多くの人が「瀬見の小川」を歌に詠むようになった、歌人としての出世歌らしい。
この歌をきっかけに、『京都賀茂川に入る泉川が下鴨神社境内の糺森(ただすのもり)を通過する部分』が、「瀬見の小川」と呼ばれるようになったらしい。
更に発展、「瀬見」の字を「蝉」の字に置き換えて「蝉の小川」となり、この銘を受けた平茶碗が、世上時折、散見される。

 

大正14年に行われた、井上侯爵家御所蔵品入札に出品された中にも、「蝉の小川」なる斗々屋平茶碗が見られる。
この平トトヤ、名碗の約束事である、「見事な高台」は勿論、加えて以下の2つの特徴的な見所がある。

 

1つ目は、見込みの堪らなく綺麗な釉溜まり。
その景色は正に「蝉の小川」の銘に相応しい。
数は有れどもボンクラの多いトトヤの平にあって、高台に加えて見込みにも見所があり、出色の出来だ。
2つ目は、過剰なまでの愛情たっぷりの次第だ。
整え主が井上馨かどうかは判然としないが、整え主の溢れんばかりの愛情が存分に感じられる。
敷き詰められた座布団に乗り、生類憐れみの令のお犬様か!(笑)

 

これ程までに整った次第を見ていると、「茶碗は中身だ!」と日々言い続けているが、次第だけでふらふらっと惹かれるちゃう気持ち、分からなくもない。

(I)

 

抹茶茶碗 Arte Classica アルテクラシカ

Arte Classica | アルテクラシカ。江戸時代及び現代作家の抹茶茶碗を扱う店。

アルテクラシカは、古美術商石黒ギャラリーが根津美術館の向かい側にオープンした、江戸時代(古美術)及び、現代作家の抹茶茶碗を扱うお店です。併せて、現代の生活空間で抹茶を楽しむための、新しいスタイルの茶器・茶筅・柄杓等の取り扱いもしております