木々がさわやかな風にさわさわとゆれる音に夏を感じるようになりましたね。
Arte Classica店長の荒木香奈です。
本日は、時の流れを忘れてしまうくらいに景色を楽しめる、茶碗をぐるりとめぐる旅へとご案内したいと思います。
今回は山口県萩市周辺で焼かれている萩焼の茶碗をふたつご紹介いたします。
萩焼は、豊臣秀吉が朝鮮へ出兵した文禄・慶長の役(1592 – 1598)で、毛利輝元が朝鮮の陶工兄弟を伴って帰国し、開窯したのが始まりといわれております。その後、毛利家の御用窯として栄え、毛利輝元を始め、歴代藩主の茶の愛好が萩焼の発展に大きく影響を与えたと言われています。
まずは、萩胴紐茶碗(はぎどうひもちゃわん)。
萩の土は浸透性があるため、使用するたびに茶が染みこみ、時間とともに風合いや色つやが刻まれていく変化を楽しむことができます。
上から見ると口の部分が四角と丸が合わさったような動きのある形。光の当たり方で、やわらかくほんのりと赤みをおびた枇杷色に見えたりと、優しい心持ちの茶碗だなと眺めるたびに感じます。
このように、高台に2カ所の切りこみが入っている状態を割高台(わりこうだい)と呼びます。
こちらは、同じ萩でも、釉薬の表情や表面に入った貫入の模様が異なる萩井戸写茶碗(はぎいどうつしちゃわん)。井戸写というのは、朝鮮で焼かれた高麗茶碗の最高峰というわれる井戸茶碗の写しという意味です。井戸茶碗は、茶道における変化として室町時代のきらびやかで完璧な唐物(中国)中心から、侘び・寂びを感じる高麗物(朝鮮)へと変化する中で、おそらく先祖を祀る祭器として使われていたであろう素朴で大らかな雰囲気のものを、茶人が茶碗に見立てたものと言われています。
こちらも、貫入の大小が二重奏となって静かなる躍動を感じる表情が趣深いです。
高台も表の静かなる表情の裏に秘める清楚なる動を感じます。
以上、今回は萩焼への旅をご案内いたしましたが、いかがでしたでしょうか? 柔らかくやさしい感触の萩茶碗。素朴な中に気品を秘めた茶碗でいただくお茶は、まさに凛とする心地のよい緊張感が広げてくれるでしょう。