今からちょうど100年前。
1919年の暮れも押し迫った師走20日。
日本美術史上に燦然と輝く大事件は起きた。
秋田佐竹家に長きに渡り秘蔵されていた、佐竹本三十六歌仙絵巻の分割である。
この離れ離れとなった三十六歌仙絵が、過去最多規模で、
今秋、京博に集結している。
佐竹本と言えば、古美術商にとっても雲の上の特別な存在。
正直、「扱う事もないだろうが、一応見ておくか」、くらいの軽い気持ちで赴いた。
が、しかし、集結して束になった佐竹本は半端なかった。
過去に単体で見た事はあったのだが、集結する事によってただならぬオーラで迫ってきたのである。
分かっていなかった自分を恥じ、そして無性に感動した。
「こんなに凄い物が秋田の地に眠っていたのか!1人で買いきれないなら、分割してでも海外流出を防ぐのだ」と
100年前に鈍翁を奮い立たせた何かが伝わってきた。
そして、分割された三十六歌仙への各持ち手の思いが、各々の好み表装という鏡に写されている。
心を打たれるエピソードがある。
住友家15代当主春翠は、各持ち手が様々な趣向を凝らして披露茶会を試みたのを横目に、生涯ただの一度も茶会で使う事はなかったと言う。勿論、門外不出。今も住友家を離れていない。
佐竹本の一角を担う役目への並々ならぬ覚悟と敬意が感じられ、美術品に向き合うその姿勢は、ただただ美しい。
今回の展覧会では、歌仙絵それ自身の素晴らしさを楽しむのは勿論だが、
同時に、長きに渡り秘蔵された国の宝を、力を合わせて後世に繋がんとした36人の侍たちの物語としても味わうべきだ。
レベルは違えど、後世への繋ぎ役と言う、古美術商の本懐を思い知らされ、背筋が伸びる。
11/24まであと僅か。
決して見逃すなかれ。
(I)